広島高等裁判所岡山支部 昭和25年(う)86号 判決
被告人が昭和二十四年十一月四日夜岡山市大黒町二十二番地小倉実雄方前道路上においてあつた吉岡三郎所有の自転車一台を同所から被告人の当時の止宿先たる同町三十五番地藤本幸太郎方裏まで持ち帰つたことは被告人の原審における供述(原審第一回公判調書参照)原審における証人吉岡三郎の供述(同第二回公判調書参照)によつて明らかなところであり司法警察員の被告人に対する第一回供述調書検察事務官の被告人に対する供述調書によれば被告人が警察、検察庁においては右は窃盜の目的に出た旨供述(尤も行動の経過に関しては若干のちがいがある)していることが認められる。
ところで原審第一回公判調書によれば被告人は公判廷において前記の如く自転車を持ち去つたのは「警察へ届出るつもり」であつた旨弁疏しているのであるが、客体は自転車であること附近には人家があり自転車に手をかけた当時附近の煙草屋では点燈しておることを認めながら被告人はその自転車の持主その他について附近の何人にも確かめる等の措置をとることなくいきなり持ち去つたのであり(右調書中被告人の供述記載参照)しかも被告人は当時附近の巡査派出所の所在は知つていたのに(原審第三回公判調書中被告人の供述記載参照)自転車の所在場所から派出所に直行しないで前記の如く止宿先に持ち帰つたことなどを考えると、特段の事情がない限り「警察へ届出るつもり」との被告人の弁疏はたやすく信用できないものと云うべく、記録並びに原審において取調べた証拠を精査するもかゝる特段の事情を窺わせるものは存しない。
従つてこの点について更に審理をしないで犯罪の証明なしとして被告人に無罪を云渡した原判決には事実誤認の疑いあるものと云うべく右は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから論旨は理由がある。